星の子ピッポ 作  キムドン




 プ ロ ロ ー グ


 カシオペアという星座を知っていますか

 アルファベットのWの形をした星座ですよ。
   
 それから、カシオペア座の五つの星のなかで一番大きく、一番明るい星がどの星か知っていますか。

 W字の右かどの星がそれですよ。

こんど、カシオペア座をさがしてたしかめて見てください。 

  天文学、学じゅつ的には、カシオペア座のアルファ-星といいます。

そして、もう一つ、このことは世界中でも、ぼく一人しか知らないことなんです。

でも、君にだけおしえてあげます。

実はねぇ、アルファ-星のむこう側、つまりちょうどうら側に一つ小さな星があるんです。

もちろん、地球からは、アルファ-星のかげになって見ることはできません。

  それなのに、なぜ知ってるというのですか。

それはね、ぼくがその星にいったことがあるからなんです。

あれっ、しんようしていないようですね、うそなんかじゃないですよ。

よ-し、それじゃあぼくが、ほんとうにその星にいったというしょうこに、その時の話をしてあげましょう。

ラムネのあわが空気の中にとけこんでいるような、真夏には珍しいすかっとすずしい夜のことでした。

夜空の星を見るのが大好きなぼくが、いつものように、原っぱにねころんで星を見ていると、だれかが

「星っ子さん、星っ子さん」

とよぶんです。

だれだろう、ぼくのことを「星っ子さん」なんてよぶのはと思いながらおきあがると、目の前に一人の小さな

女の子が立っていました。

このあたりでは、見かけない子で、上から下まで体にぴったりあった真っ赤な服を着ています。

「星っ子って、ぼくのことかい。」

といぶかしげにきくと、その子はニッコリとわらってうなずきました。

「星っ子さん、星っ子さんは、いつもこの原っぱで星を見ているでしょう。だから、わたし“星っ子”って

名前をつけたの。いいでしょう、星っ子さん。」 

「なんだかてれくさいけど、いいよ。それよりきみはだれだい。どこからきたんだい。」    

「わたしは、ピッポ。あの星からきたのよ。」        

 そう女の子は言ってピカピカ光るカシオペア座のアルファ-星指さしました。

「ええっ、あの星から……」

ぼくは、びっくりして聞きかえしました。

「すると、きみは宇宙人」

「そうよ、でも正確にはあの星のうら側にある小さな星からきたの。直径が1キロメ-トルくらいかな。

なんにもない星なのよ。」

「へえ-、なんにもないなんて、おかしな星なんだね。」

 「だからわたし、そののっぺらぼうの星を美しくしようと思って、地球へ木の苗や花の種などをとりにきたの。

地球は、緑がいっぱいでとてもきれいな星だわ。広い宇宙をさがしまわってやっと見つけた美しい星が地球

なのよ。」

ぼくは今、地球が戦争や公害などでどんどん破壊されていると思っていたので、まだ、だいじょうぶなのかな

ちょっと安心しました。

「でも、星を作りかえるなんて大変だな。まさかきみがひとりでやるわけじゃないだろう。」

 「そう星を美しくつくりかえるのは大変な仕事なの。わたしの星の住人は、ヤセマロとフトッチョプー、

それからわたしの三人きり、だれか手伝ってくれるといいんだけど。」

かわいい宇宙人ピッポは、そういうとぼくの顔をじっと見ながら、小さな手をそっと合わせました。

僕は、こまってしまいました。夏休み中で学校は休みだけれど、宿題はいっぱいあるし、それに何日も家に

帰らなかったら、おかあさんが心配します。

「大丈夫よ、お手伝いが終わったら、また、今日のこの時間にもどってくるわ。わたしの乗ってきた円ばんに

は、タイムマシ-ンもついているのよ。」

  ピッポは、ぼくの心配そうな顔をみていいました。そして、もう、ぼくの手をしっかりにぎって、かけだしそうな

様子です。

「うん、いくよ。ぼくも手伝ってあげるよ。」

ぼくは、決心していいました。

 あの星空を旅するなんて夢みたいな冒険のチャンスをのがすわけにはいきません。

「それじゃ、星っ子の気持ちが変わらないうちに行きましょう。」

ピッポは、ぼくの手を引くと原っぱのはずれをめざして走り出していました。

 そこには、いつの間にか、銀色にかがやく、円ばんが横たわっていました。

円ばんの中は、せまくてきゅうくつでした。

木のなえや花のたねがあちこち、いっぱい積みこまれていたからです。

「さあ、星っ子さん、500光年の旅へ出発よ。」

ピッポは、なにやら、わけのわからないそうちのボタンをいじくりながらいいました。

「ちょっと、待ってよ。」

ぼくは、すっかりあわててしまいました。

「ウワ-ッ、そんなに遠いの?ぼくはその星につく前におじいちゃになって、死んでしまうよ。」 

「あら、だいじょうぶよ。さっきもいったでしょう。この円ばんには、時間だって、空間だっていっしゅんの

うちにとびこえてしまうそうちがついているから。」

そういっている間に、円ばんはふわりとうき上がり、ずんずん高さをましていきます。

町が箱庭のように小さくなったと思うと、つぎのしゅんかんにはもう暗くかすんで見えなくなり、ぐんぐん雲を

つきぬけ、やがて地球の丸みがはっきりわかる宇宙空間に飛び出していました。

「さあ、500年ひとっとびよ。少しゆれるから気をつけて。」      

ピッポは、そういうと胸がわるくなるような、きみょうにねじまがったレバ-をグイッと引きました。

青白いせん光とともに、円ばんがグラッとゆれました。

目の前の星空がグニャとゆがんだかと思うと、円ばんは光のうずの中にすいこまれていきました。

円ばんは光のトンネルの中でしばらくグルグルもまれていましたが、そのうち、また光のばくはつとともに

星空が見える空間に飛び出ました。

「ついたわ。」

ピッポが、ぼくのほうをふりむいていいました。

「ええっ、なんだって」

ぼくはおどろいて、円ばんのまどから外を見てみました。

 すると、円ばんのうしろに大きくみえていた地球があとかたもなく消えていました。

星のいちもすっかりかわって要るし、見知った星座は一つもありません。

出発前に地球が見えたところには、見おとしてしまいそうな小さな星がうかんでいます。

「それが、わたしたちの星よ。」

ピッポは、指さしていいました。

500光年の旅は、ほんとうにあっけなく終わったのです。

ピッポの星へきてから、ぼくはいっしょうけんめい、はたらきました。 

地面をほりさげ海をつくり、その土で山や丘をきづきました。

そして、そこを流れる大きな川や小さな川をたくさんつくりました。

のっぺらぼうの赤茶けたじはだをさらしていたその星は、みるみるうちに変わっていきました。

星は、一面緑につつまれ、いたるところにまかれた花の種は、やがてあちらこちらにいろとりどりの

花を咲かせ始めました。

今まで、つめたくヒューヒューと吹いていた風も花の香りを運ぶそよ風となって、今はやさしくふいて

います。

 ヤセマロとフトッチョプーはそれはそれは働きものでした。

高いところの仕事はノッポのヤセマロ、重いものを運ぶ仕事は力持ちのフトッチョプーというぐあいに

仕事をうまくわけあってテキパキ進めていました。

 みんなは、毎日毎日、本当に楽しく働きました。

 だって、自分たちの星を美しく作り変えるのですから、それは、あたりまえのことです。

 「美しい星にするため、みんなで力を出しあう」

これが、この星のたった一つのきまりでした。

4人が力をあわせて、夢中で働いていたら、小さな星はあっという間に見違えるような星に

生まれ変わりました。

ピッポの星にきてひと月ほど経った、ある日のこと、みんなは出来上がったばかりのお花畑を

ながめながら、一休みしていました。

 「星っ子さん、わしゃ、ピッポから地球って青くて、とってもきれいな星だと聞いていたけれど、

やっぱり、今わしらがやっているように地球の人がみんなで力をあわせて美しく作りあげたんだろう。」

 どっかり、地面に腰をおろすなり、そう聞いたのはフトッチョプーです。

 ヤセマロも、フトッチョプーの横に腰をおろして聞きました。

 「地球は、この小さな星の百億倍も大きいと言うからなあ。美しく作り変えるには百億年も

年月がかかったかもしれないなあ。どうなんだい、星っ子さん。」

 「うーん。それは……。」

 ぼくは、こまってしまいました。ヤセマロとフトッチオプーは、ぼくの答えをまっています。

 たしかに、今のような美しい地球になるまでには何十億年とかかっています。

 でも、それは人間たちが作り上げたわけではありません。

 地球自身の長い自然のいとなみで作り上げられた美しさです。

 そのことについてヤセマロとフトッチョプーに説明するのはなんでもないのですが、

地球の人みんながその美しい地球を汚したり、壊したりしている今の状況については

どう説明したらよいのでしょう。

 いつも地球のどこかで戦争をおこし、たいせつな緑の山に大砲をうちこんではげ山にしたり、

爆弾をおとして実り豊かな田や畑を穴ぼこだらけにしたり、原爆兵器の開発実験で放射能の雨を

ざんざんとふらせたり、それはそれはひどいのです。

戦争がない平和な時も、水を汚し、土を汚し、空気を汚し、美しい地球をごみだめのようにしています。

だからそんなことをヤセマロやフトッチョプーにはとても話せません。

ぼくは、返事にこまってすっかり考えこんでしまいました。

 

 その時、とつぜん、ドカーンと耳をつんざくようえな大きい音がしました。

 みんなで汗を流して作ったきれいなお花畑に大きな穴をあけて突き立ったのは、不気味な銀色の光を

放った巨大なロケットでした。

 「なんだい、あれは。」

 ぼくは、びっくりしてピッポにたずねました。

 「星っ子、あれはアキンドのロケットよ。」

 ピッポの説明によると、アキンドは星から星へといろいろなものを売り歩いている宇宙の商人でした。

ピッポの円盤もアキンドから買ったということです。

 「ピッポ、アキンドから円盤を買うとき、お金をどうしたの。この星にはお金なんかないだろう。」

 「それがねえ、アキンドは、かわらに落ちている石ころを目の色をかえてほしがるのよ。」

 それは、ダイヤモンドのことでした。

 この星には、ダイヤモンドの宝石が石ころのようにたくさんころがっているのです。

 ピッポの星では、なんでもない普通の石ころのほうが、かえって珍しいくらいです。

 ぼくたちが、川原にしきつめたつけもの石くらいの大きいダイヤモンドをお母さんに見せたらきっと

目を回してしまうでしょう。

 だって、お母さんは米粒くらいのダイヤの指輪をそれはそれは大切にしているからです。

 そうこうしているうちに、アキンドが作り笑いをそのずるがしこそうな顔いっぱいに浮かべアキンドが

出てきました。

 「これはこれは皆さん、こんにちは。イヤー、すっかり、見違えました。ひと月足らずに、こんなに

美しい星になるとはねえ。ところで、この星を治める人はどなたです。」

 「この星を治める?」とヤセマロ。

 「なんだいそれは?」とフトッチョプ-。

 「おやおやね、そんなことも、ご存知ないとは。」とアキンドは、人を小ばかにした口調で続けます。

 「村には、村長。町には町長。市には、市長という具合に、この星にも王様がいなくてはいけません。」

 アキンドがこんなことを言い出したのはわけがあったのです。

 アキンドは、だれかを王様にしたてて、いろいろなものを売りつけ、あのつけもの石みたいに大きい

ダイヤモンドをたくさん手に入れようと思っていました。

 「王様かあ、王様ってお城に住んでいて、思いっきりぜいたくができるんだよね。」

フトッチョプーが物知り顔で言いました。

 「アキンドさん、王様って、なんでも自分の好きなことができるんだよね。ちょっと、なってみたいな。」

ヤセマロは、もう、自分が王様になる気でいます。

 「だめよ、ふたりとも。あたしたちには、王様なんていらないわ。そんなふうにぜいたくをして、遊んで

ばかリいては、星をきれいにする仕事ができなくなるわ。」

 ピッポはそういうと、アキンドのロッケットの下にかけよりました。

 アキンドのロケットにふみつぶされ、ふきとばされた沢山の植えたばかりの花を助けてやらなければ

なりません。

 ヤセマロとフトッチョプ-は、しばらくぶつぶつといっていましたが、ピッポにしかられて、花を助ける

しごとを手伝いはじめました。

 アキンドは、その様子を手伝いもしないでにやにや笑いながら見ています。

 「ふん、そのうち俺のおもいどおりになるさ。」

 アキンドは、腹の中でそう思っていました。

 

 アキンドが、花畑にかってにお店を開いたのは次の日のことでした。

 「アキンドデパート」とかいた大きな看板が立てられています。

 品物は花畑の上に花を押しつぶしてドカドカと投げるように置いています。

 それはそれは、たくさんの品物です。小さいものは、洗濯ばさみから、大きなものはお城の建て売りまで

いろいろあります。

 そこへ、ヤセマロとフトッチョプ-の二人がブラブラやってきました。

 「へえ-、いろんなものがあるんだなぁ。これ、みんな、川原の石っころを持って来れば売ってくれるのかい。

とっても、安いじゃないか。」

 フトッチョプ-が目の玉をキョロキョロさせていいました。

 すると、あちらこちらの品物をものほしそうに眺めていたヤセマロが百科事典ほどもある分厚い本を

かかえてやってきました。

 「おいおい、おもしろい本があるぞ。『一週間であなたも王様になれる』だってよぉ。」

 「なに、どれどれ見せろ。」

 ヤセマロもフトッチョプ-もアキンドに王様の話を聞いてから、大変興味を持っていました。

 二人ともむさぼるように夢中で本を読んでいます。

 その様子をじっと見ていたアキンドがニヤニヤとずるそうな笑みを浮かべて二人に近づいて

きました。

 「おやおや、お二人さん、どうやらその本がお気に入りのようですね。でも、立ち読みはいけません。

立ち読みは。」

 そういうと、二人の手から乱暴に本を取り上げてしまいました。

「買うよ、買うよ、アキンドさん。川原の石を持って来ればいいんだろう。」

 「川原の石、10個につき、この本一冊。」

 「よし、それじゃあ、すぐとってくるよ。」

 それからまもなく、二人は10個の川原の石とひきかえに『一週間で王様さまになれる』の本を

買ってニコニコ顔で帰っていきました。

 ところがそのあとすぐに、この本の取り合いで二人は大ゲンカになりました。

 「おれが最初に見つけたんだから、おれの本じゃないか。」

 「なにをいってるんだ。おれは石を8つもほったんだぞ。おまえはたった一つで、それもおれに

たすけてもらってやっとこほりだしたくせに。」

 「え-い、だれがなんといったって、これはおれの本だ。」

 ヤセマロは、本の半分をしっかりにぎってはなしません。

 フトッチョプ-も、負けてはいないでもう半分を力いっぱいひっぱります。

 二人とも、自分が先に読もうとしてお互いにゆずらなかったものだから、しまいに、本の奪い

合いになってのです。

 「バリ、バリッ」「ドスン」

 とうとう、その分厚い本は、真っ二つに裂け、二人は大きなしりもちをついてしまいました。

 「こんちくしょう。」

 「おぼえていろ。」

 二人は、お互いにののしりあうと、それぞれ裂けた本の片方をもつとプイッと背をむけて

別れていきました。

 ヤセマロとフトッチョプ-がケンカ別れをしていたころ、ぼくとピッポは川原を散歩していました。

川の中にしきつめたダイヤモンドが日の光にキラキラとかがやき、とてもきれいです。

「おやっ」とピッポが声をあげました。

見ると、二つの人影が川原にあらわれたかと思うと、川の中の石ころをほじくりだしています。

 「ねえビッポ、あの二人なにをしているんだろう。」

 「たいへんだわ-、あの人たち川の中を穴ぼこだらけにしているわ。」

 「ほんとうだ、こら-。」とぼくは、大きな声でどなり、かけよりました。

 その声におどろいて、ひょいと顔を上げたふたりを見るとどうでしょう。ヤセマロとフトッチョプ-

ではありませんか。二人は、すっかりあわてています。

 「あっ、たいへんだあ。」「こりゃ、まずいや。」

 そういうと二人は、背中にダイヤモンドをいっぱいつめこんだふくろをしょいこみ、こそこそ、よたよたと

にげだしました。

 ピッポとぼくは、なにがなんだかわからずにポカ-ンとくちをあけて、あきれて二人をみおくりました。

 「どうしたんだろう。あの二人。」「ほんとうにどうしたのかしら、二人とも。」

 このぼく達の心配は、やがて、たいへんなこととなってあらわれました。

 

 5 

 一晩のうちに、この小さな星に二つのお城がたちました。 この星には、不似合いなほど馬鹿でかい

組み立て式のお城です。

南の丘にはヤセマロ、北の丘にはフトッチョプ-のお城がたっています。

二人は、アキンドにだまされてこの星の王様に祭り上げられてしまったのです。

アキンドにしてみれば、一人の王様より二人の王様のほうが商売の取り引きの相手がふえて都合が

良かったのです。

 それで一生懸命二人にけしかけて買い物きょうそうをさせたのです。

 きれいに作りあげた美しい川原が穴ぼこだらけになって、この星のダイヤモンドがみるみるすくなくなって

いきました。そのかわり、ヤセマロのお城とフトッチョプ-のお城には、ありとあらゆる品物がもちこまれ

ました。もちろん、その中には、おそろしい人殺しの武器もたくさんありました。

 「もう、ゆるせないわ。」とピッポはカンカンにおこっていいました。

 汗水流して作り上げた黄金の川原が見る影もなく荒らされてしまったからです。」

 「あたし、ヤセマロとフトッチョプ-にお城をこわして元通りにするようにいってくるわ。」

 「うん、ぼくは、アキンドにこの星から出ていってくれとたのんでくるよ。」

 ぼくとピッポは、そう申し合わせると勇んで出かけていきました。

 これ以上ほおっておくと、この小さな星は穴ぼこだらけのアバタの星になってしまいます。

 それに、ヤセマロもフトッチョプ-もすっかり威張りグセがついて、ちっとも働かなくなってしまったのです。

 アキンドは、花畑の百貨店にいました。

 そして、僕の怒った顔をみるとニヤニヤ笑いながらいいました。

 「星っ子さん、どうも長い間、お世話になりました。そろそろ、この星からおいとまします。」

 「えっ、なんだって。」僕は、びっくりしました。

 意外なことに、アキンドは、自分からこの星を出て行くと言い出したのです。

 この小さな星にいれば、好きなだけダイヤを集めることができるのに、どうしたことだろうと

思っていると、

「アハハハハ、これ以上ダイヤモンドを積み込んだら、ロケットが飛べなくなりますからね。」

アキンドは、僕の考えを見抜いたように、今度は、ケラケラと大声で笑いながら言いました。

そして、さっさとロッケトに乗り込むと、ごう音をたてて、飛び去ってしまいました。

さんざん、星をあらしまわったアキンドには、腹が立ちましたが、ともかく出ていってしまいました。

アキンドがいなくなれば、ヤセマロもフトチョプーももとの陽気な働き者に戻ってくれるにちがいありません。

 このことを早くピッポに知らせようと、僕は急いで駆け出しました。

 ピッポは、さっき別れた川原でまっているはずです。

 

 息をきらして川原にもどってきた僕の目に、異様なものが目に入りました。

 「壁だ。壁ができている。」

 ぼくは、おどろいて立ちどまりました。

 3mもあるプラスチック製の壁がいつのまにかできていました。

 壁は、この小さな星をグルッと取り巻いているらしい。

 「ピッポは、どこにいるんだろう。まさか、この壁のむこうに……、きっと、そうだ。」 

  「おーい、ピッポー。」

 ぼくは、大きな声で壁に向かって、叫んでみました。と

 すると、壁のむこうから、

 「あたしは、ここよー。」とピッポの声が返って来ました。

 「大変なのよ、星っ子。どうやら、ヤセマロとフトッチョプーが戦争を始めたらしいの。あたしたち、それに、

かりだされるらしいわ。」

 その時、ピッポの悲鳴が聞こえてきました。

 「兵隊になるなんていやよ。」

 とピッポの声。

 「うるさい、さあ、つべこべ言わずにくるんだ。」
 
 とどなっているのはヤセのガラガラ声です。

 『ヤセマロの奴、ピッポをお城に連れて行く気だな。そうはさせないぞ。』

 と思うのだが、なにしろ壁にさえぎられていて、どうしようもありません。

 じたんだ踏んでいると

 「こらっ、星っ子どこをうろついているんだ。」

 と急に後から怒鳴りつけられました。

 金ぴかのくん章を体中にぶらさげたフトッチョプーです。

 「さあ、星っ子、おれといっしょにお城に来るんだ。お前には、兵隊になって戦ってもらわなくてはならん。」

 「いやだよ。兵隊なんてまっぴらだい。よりによってピッポと戦うなんて。」

 ぼくは、きっぱりとことわると、壁のむこうのピッポに

 「にげるんだ。ピッポ。」
 
 と声をかけると一目散にかけだしました。

 星を半周したころ、後を振り返ると、フトッチョプーはあきらめたらしく、もう追ってきませんでした。

 「さあて、なんとかしてむこう側にいかなくては。」

 3mもあるかべを見上げて、ぼくは考えました。あたりを見まわすとポプラ並木がこちらから、むこうに

 突っ切っているところがありました。

 『よし、あのポプラ並木を伝って壁をこえて行こう。』

 そう思いつくとさっそくポプラの木にとびつきました。

 壁の高さまでのぼり、むこう側のポプラの木に手をかけてとび移り、そろそろとおりかけると

 「ドカーン」と大きな音とともに、地面を揺るがし、爆弾がおちてきました。

 「ウワー」とぼくは、もんどりうって地べたにたたきつけられました。


 大砲の弾はどんどん頭の上をとんでいきます。

 どうやら、フトッチョプの奴、ぼくを兵隊にできなかったので、自分で大砲を打ち出したらしいのです。

 まもなく、ヤセマロの城からもドンドンパチパチ,機関銃や大砲の音がきこえてきました。

 『ピッポはどうしたんだろう。ヤセマロの奴につかまったかな。』

 ぼくは、心配になってきました。

 大砲の音はますます激しくなり、機関銃のタタタとはぜろ音や手榴弾の炸裂する音がその合間合間に

 きこえてきます。

 きれいだったお花畑や森や川が片っ端からこわされていきます。
                                    
 


 「星っ子、星っ子」とピッポの声がしました。
 
 ヤセマロのお城の方から、手をふりながらかけてきます。

 「ピッポ、だいじょうぶかい。」

 息をはずませ、ぼくのいるところにかけよってきたピッポに声をかけました。

 「あのね、あたしヤセマロにお城に連れていかれ、鉄砲をもたされ,兵隊にされてしまったのよ。

そのうち、フトッチョプーが大砲をうちだしたでしょう。あたし、びっくりしちゃった。ヤセマロがおおあわてで

応戦している間に、こっそりにげだしてきたの。」

 大変な目にあったんだね。とにかくピッポ、ここにいてはあぶないから、円盤のところへ行こう。」

 円盤は、お花畑においてあります。

 お花畑についたとき,ピッポは泣きそうな顔になりました。
 
 「まあ、ひどいわ。」

 思っていた通り、お花畑は大砲の弾で穴ぼこだらけになっていました。

 でも、円盤は無事にありました。

 ぼくは、円盤に乗り込むとやっと落ち着いてピッポにたずねました。

 「なんでヤセマロやフトッチョプーは、戦争なんか始めたんだろう。」

 「それがおかしいったらないの。あんなに,一生懸命買いだめた品物なのに、お城いっぱいになると今度は

 じゃまだといいだしてヤセマロとフトッチョプーがお互いに品物の押し売り合戦を始めたらしいの。

 それがエスカレートして戦争になったみたい。押し売り合戦を進めたのはアキンドだって、ヤセマロがいって

たわ。」

 「そうか、わかったぞ。アキンドの奴、この星をこわしてしまうつもりなんだ。それでヤセマロとフトッチョプーに

戦争をしかけたんだ。星をこわしたたあと、また,いろいろなものを売りつけようと思っているんだ。」

 「えっ、この戦争はアキンドがしくんだことなの。あたしたちの星をこんなにめちゃめちゃにして……」

 ピッポは、くやしそうに顔をゆがめました。その大きな目からは大粒の涙がポロポロと流れています。

 そんなピッポのようすを見ているとぼくはとっても悲しくなりました。

 おもては、もう日の暮れです。

 
大砲の音が時々、思い出したように聞こえていましたが、それもままなくやみました。

 ヤセマロもフトッチョプーもくたびれたのでしょう。

 「ピッポ、大砲の音がしなくなったからちょっとおもてに出てみようよ。きっと、きれいな星が出ているよ。」

 ピッポとぼくは円盤から出ると穴ぼこだらけのお花畑に寝そべって星空をながめました。
 
 ちいさな僕達の星はこわされてしまったけれど、星空はいつもと変わらず美しく輝いています。

 ぼくは、涙を流しながら星空を見ているピッポにいいました。

 「ピッポ、2.3日もすれば戦争は終わるよ。」大砲や機関銃の弾がなくなればヤセマロもフトッチョプーも

戦争をしたくてもできなくなるからね。」

 「うん、ヤセマロもフトッチョプーもお城から出てきて、自分たちのしたことを見たら、きっと気がついて

 くれるわ。」

 「今度、アキンドがやってきても、この星がめちゃめちゃにされないように、仲良くしなくちゃ。」

 「そうだね、そしてもっともっと美しい星をつくりましょうね。」

 ピッポは、すっかり元気になって、そう言いました。

 その時、ピッポは大変なことに気がつき、とびおきました。

 「大変だわ、ヤセマロとフトッチョプーのお城には,こんな小さな星などいっぺんに吹き飛ばしてしまうほどの

 爆弾があるのよ。ヤセマロとフトッチョプーがそれを使ったら……」


 ピッポの顔はすっかり青ざめています。

 「まさか、ヤセマロもフトッチョプーもそんな爆弾を使うわけがないよ。」

 そう言ってみても、ぼくも心配になってきました。

 ピッポは、しばらくだまりこくっていましたが、やがて決心したようなようすで

 「星っ子、もう今夜はねましょう。あたし、つかれてしまったわ。」

 と言うと円盤の中に入っていきました。
                
 

 

 「あー、いつの間にかねてしまったんだなあ。静かな朝だけど、ヤセマロとフトッチョプーは戦争をやめたのかな?」

 「あーあー」とぼくが大きなあくびをしたとたん、 「ドカーン、ドカーン」と爆弾の音がはじまりました。

 「ちぇっ、がっかりさせるなあ、やっぱり、きょうも戦争をつづけるのかあ」

 外の様子を見ようと円盤から出ようとした時、ピッポに肩をつかまれました。

 「星っ子、あぶないわ、円盤の中に入っていましょう。」とぼくを円盤の中央にあるそうじゅう席にすわらせました。

 そして、そうじゅう席のシートベルトをロックすると自動そうじゅうのボタンをおしました。

 なにがなんだかわからないぼくに、真剣な顔をしたピッポが一枚の紙切れをにぎらせると

 「さよなら、星っ子」というなり、円盤から飛び出て行きました。

 あわててシートベルトをはずしてピッポを追いかけましたが、円盤の扉は押しても引いてもあきません。

 ふと、気がつくと円盤は上昇しています。

 円盤の窓から下をのぞくと、ピッポがぼくに手をふっています。

 「ピッポ、ピッポ」と窓をたたいてさけんでいるうちに、円盤は上昇を続け、ピッポはもう豆粒のように

 小さくなってしまいました。

 『どうしてピッポはこんなことをしたんだろう。』

 ぼくは、さっぱりわけがわかりません。

 そのとき、さきほどピッポがぼくの手ににぎらせた紙切れが目に入りました。

 《  星っ子、さようなら。地球に帰っても元気でね。
   
   あたしは、これからヤセマロとフトッチョプーのところへ戦争を止めるように言ってきます。

   もし,二人とも言うことをきかず、おそろしい爆弾を使ったら星っ子も死んでしまうわ。

   だから、地球に帰ってもらうことにしたの。

   でも、きっと戦争はやめさせるこができるわ。

   そうしたら、また地球にいって花の種や木の苗を集めにくるわ。

   その時は、またお手伝いしてね、星っ子さん。

   その日がくるまで、さようなら。

                  星っ子へ      ピッポより      》 


 「ピッポ、一人で行っちゃあだめだよ。ぼくもいっしょに行くよ。」

 ぼくは、円盤を小さな星にもどそうと思いましたが,そうじゅうの仕方がわかりません。

 円盤は、ドンドン小さな星からはなれていきます。

 「ああ-っ、どうしたらもどれるんだ。」

 ぼくは、そうじゅう席のパネルのちかちかと光るボタンを手当たりしだいおしていきました。

 円盤は、いっこうにその進路を変えようとしません。


 「ええい」と腹立ちまぎれに、そうじゅう席のきみょうにねじまがったレバーをらんぼうにおしたおしたときです。

 ポンと青白い光が放ったと思うと次ぎの瞬間には、円盤は大きな光にうずに巻き込まれて行きました。

 ぼくのおしたおしたレバーは、ピッポが前に教えてくれた時間や空間をいっしゅんにとびこえる装置だった

のです。

 ぼくは、もうれつな光のうずの中でとうとう気を失ってしまいました。


 

                             
 「おやおや、こんなところにねころんで、ほら、おきなさい。風邪をひきますよ。」

 とだれかがぼくをゆりおこします。

 「うーん、ピッポ、ぼくもいっしょにいくよー。」

 ぼくの頭はもうろうとしています。

 「なにをねぼけているの。さあ、おきなさいったら。本当にしょうがないわねえ。」

 『だれの声だろう。』

 ぼくは、だんだんとはっきりしてきた頭で考えました。

 「ああっ、お母さんの声だ。」

 目をあけるとぼくを心配そうにのぞきこんでいるお母さんの顔がありました。


 「やっぱり、お母さんだ。そうか、ぼくは地球に帰ってきたんだ。」

 「なにをまだぶつぶつ言っているの。こんなに夜おそくまで遊んでいちゃあ、だめじゃない。」

 「ごめんなさい。お母さん、何日も家をるすにして。」

 お母さんは、けげんな顔をしてぼくを見ていいました。

 「るすをしたって。夢でも見たの。いやだあ、まだねぼけてるの。」

 ぼくは、なんだかわけがわからなくなりました。

 お母さんは、ぼくが何日も家に帰っていなかったのに、少しも心配していません。

 そのとき、原っぱのはずれでキューンとふしぎな音がしました。目をやると。ぼくとピッポが

円盤に乗り込み、飛び立つところでした。

 「そうか、ぼくがあのきみょうなレバーをらんぼうにあつかったので、きっと、時間の流れが

くるってしまったんだ。それで、ぼくとピッポが地球をとびたつ直前の時間にまいもったんだ。」

 そう気づいたときには、円盤はどんどんと高度を上げていました。
  
 「お母さん、やっぱり、ぼくは小さな星へ行ったんだよ。あの円盤にぼくとピッポがのっているんだ。」

 ぼくの声におどろいて、お母さんは星空を見上げました。

 でも、その時はもう、円盤は夜空に吸い込まれるように見えなくなっていました。

 「さようならピッポ、さようなら。」

 ぼくは、あきれた顔をしたお母さんにはかまわず、いつまでも星空に向かって手をふりつづけ

 ました。



 
エ ピ ロ ー グ

 
 さあ、これでぼくが、カシオペア、アルファー星のむこう側にある小さな星に行った時の話はおしまいです。

 やっぱり、君もぼくのお母さんと同じように信用してくれないのかな。

 でも、本当の話なんだよ。

 ぼくは、このことがあってから、カシオペアが大好きになりました。

 カシオペアを見ているとあの小さな星のことを思い出すからさ。

 でも、少し悲しい思い出だけだけどね。

 ピッポは、いつも 「地球って、青くてきれいな星だわ。」っていってたけれど、その地球で、ピッポの大嫌いな

 戦争がひっきりなしに行われていると知ったら、ピッポはきっとびっくりするだろうなな。

 いや、それよりも、どんなに悲しむことだろう。

 ところで、小さな星のヤセマロとフトチョプーの戦争のことだけど、ぼくはピッポがやめさせることができたと

 信じています。


 そして、みんなで戦争でこわされた星をもとどおりにするため、がんばっていると思っています。

 また、この地球へ花の種や木の苗を集めに来るかもしれません。

 いつか、ひょっこりぼくのまえにあらわれるのを楽しみにしています。

 もしかすると、きみのところにくるかも知れませんね。

 きみがどこかで赤い服の女の子にであって、その時、きみの心があの広い宇宙のように広がったら、その子は

 きっと、ピッポだよ。そのときは、ぼくにおしえてね。

                                     
 おしまい