子だぬきの音楽隊     作 キムドン

              

 

ポ−ン ポ−ン スッポコポ−ン

丘のふもとの林の中から そんな楽しい はずんだ音がきこえてきました。

その音は、すんだ夜空にこだまして、あっちこっちにひびきわたりました。

ポ−ン ポ−ン スッポコポ−ン

ポ−ン ポ−ン スッポコポ−ン

おや こんどは、むこうの林からもきこえてきましたよ。

ポ−ン ポ−ン スッポコポ−ン

ゆかいにはずんだその音は、だんだんにぎやかになりました。



どうやら林の中から丘の上へとのぼってくるようです。

 夜空には、まあるいお月様が、にっこり笑って見ています。

 「今夜も楽しい太鼓がきけるぞ。さあ、みんなやってきたな。」

 お月様は、丘の上のステ―ジに黄色いスポットライトをあてました。

 「ポ−ン」とその光の輪にかわいい音がとびこみました。

 「わぁ、だれもきていないぞ。ポン ポン わぁ−い 一番のりだ。」

 たぬきです。それは、おなかのプチッととびでたかわいい一ぴきの子だぬきです。

 「ポ−ン、ポ−ン」「あれっ、ポンコタンコはやいなぁ。」

と次々に光の輪の中にとびこんできたのは、グリグリ目玉のノンコロリンとおへその

ピョンとでたケッケタンです。

 三びきそろった子だぬき達は、お月様のスポットライトの中にきちんとならんで

たちました。

 

  さぁ、これから一体何が始まるのでしょう。

 「みんな、用意はいいかい。それじゃ いち、にいのさぁ−ん」

 ポンコタンコが胸をはって、さっと手をあげると、

 ポン ポン ポコ ポコ ポ−ン

 ポン ポン ポコ ポコ ポ−ン

と、子だぬき達はいっせいに、おなかをたたきはじめました。

 

 そう、もうわかったでしょう。さっきから、聞こえていた ポコポコ ポーンという

楽しい音は、子だぬきたちの腹づつみだったのです。

 ポンコタンコ、ノンコロリン、ケッケタンの三匹の仲良しの子だぬきは、満月の夜に

丘の上に集まって、かわいい腹づつみをするのです。

 ポンポコリ−ンと高い音、ポコポコポ−ンと低い音、子だぬきたちは広い丘の上を

あっちにポ−ン、こっちにポ−ンととびまわり、にぎやかに太鼓をつづけます。

 子だぬき達のはずんだ太鼓の音は、お月様のスポットライトからとびだして

丘のふもとの林の中にポコポコポ−ンと流れていきました。

 ポコポコポ−ン ポコポコポ−ン スッポン ポコポコポ−ン

 子だぬきの音楽隊は今や最高潮。



 夜空のお月様は、ニコニコと笑ってみていましたが、ついつい浮かれて思わず手を

パチパチとたたいてしまいました。

 「おや、だれだろう」

 「だれか 手をたたいたよ」

 みんなは腹づつみをやめて顔を見合わせました。

 「でも だれもいないよ」

 ケッケタンは気味悪そうにいいました。

 ノンコロリンがキョロキョロとあたりをみまわします。

 「あっ お月様だ。お月様だよ。」

 「ほんとうだ。ニコニコわっらって見ているよ。」



 ケッケタンは、びっくりして夜空を見上げました。プチッととび出たおへそがお月様の

光でチカッとひかりました。お月様はてれくさそうです。

 「ごめん、ごめん、おどろかせてしまって。みんながあまり上手なのでついつい手を

たたいてしまった。さあ、楽しい太鼓をつづけておくれ。

 「うん。いいよ。」

 ケッケタンは、おなかをポ−ンとたたいてみんなに合図をしました。

 また、楽しい太鼓の演奏がはじまりました。お月様はすこしのあいだだったけれど

子だぬきたちの太鼓の演奏がやんだのが残念でした。今夜がすぎると次の満月の夜まで

子だぬきたちのすてきな音楽が聞けなくなるからです。



 

 お月様は、そのときふと思いつきました。

 「この子だぬきをわしの頭の上にのせて歩いたら、毎日ゆかいな音楽が聞けるぞ。

でも、頭の上にのせて歩くのは1匹で十分だ。耳元で3匹がいっせいに太鼓をたたいたら

きっと、うるさくてかなわないぞ。」

 そこで、お月様はいっしょうけんめい腹つづみをうっている子だぬきたちにいいました。

 「なあ、みんなわしといっしょに世界旅行をしてみたいと思わんかね。高い空のてっぺんで

腹つづみをしながらさ。」

 「うわぁ すごい」とスットンキョな声をあげたのはポンコタンコです。
 「お月様の上にのったら高くていい気持ちだろうなぁ」



 ノンコロリンは大きな目玉をやっとこつぶると、お月様の上にのっている自分のすがたを

おもいうかべました。

 「お月様、本当にお空の上にのぼれるの。世界を空の上から見られるなんてすてきだわ。」

 ケッケタンは、ためいきまじりにいいました。

 「ねえ ねえ ぼくたちお月様といっしょに行くよ。」

 みんなはお月様におねがいしました。

 「それはよかった。でも、みんないっしょじゃあ無理だよ。だって三日月のとき、すべって

おっこちたらたいへんだもの。」



 お月様は、つれていく子だぬきは一匹でたくさんでした。

 それで子だぬきたちをジロッと見るとこういいました。

 「みんなのなかで腹づつみの一番上手なのはだれかな。」

 そのとたん
 「僕が一番だぁい」

とポンコタンコがとびだしてきて、ピョンピョンととびはじめました。

 それを見たポンコロリンとケッケタンはだまってはいません。

 「なんだい ポンコタンコの腹づつみなんかボワボワボワの空気もれだよ。」

 「そうだそうだ テンテラテラのへたっぴ太鼓だぁい。」

 「ふん だれがなんといったって一番は僕だぁい。」

 ポンコタンコは、お月様にのりたいばっかりにけっしてゆずりません。

 それはノンコロリンもケッケタンもおんなじです。

 ケッケタンは、おなかをポコポコたたきながらいいました。

 「お月様、あたしが一番かわいい音だよね。」

 するとポンコタンコとノンコロリンもあわててボコボコと腹づつみをはじめました。

 「ねえ ねえ お月様。僕のほうがいいおとだよね。」



 お空のお月様は大弱りです。みんなバラバラに腹づつみをするのでさっきとはおおちがいで

うるさいばかりです。

 もう夜明けです。お月様は子だぬきをつれて帰るのをあきらめることにしました。

 そっと東の山にしずみかけたお月様に子だぬき達は気がつきました。

 「あっ お月様が帰ってしまう。」「お月さまあー。」

 子だぬきたちはそうぞうしい腹づつみをやめると口をそろえてさけびました。

 「お月さまあー だれが一番なのぉー だれをのせてくれるのぉー。」

 でも、お月様はなんにもいわずに東の山にしずんでいきました。

 さあ それからが大変です。

 丘の上に上ってきた時は、なかよくみんなでそろって腹づつみをしていましたが、お月様が

帰った後は、おたがいに悪口をいいながらてんでんばらばらに帰っていきました。

                                 


 あくる日のこと、今日はみんななかよく朝ねぼうかと思ったら、おやっ、もうきていますよ。

 ほら、丘の上。けさはまたどうしたのでしょう。」

 3匹のおかあさんたちは、さっぱりわけがわかりません。

 「いつもは朝ねぼうなのに、どうしたのかしら。」

 「あめでもふるんじゃないかしら。」

 「まあ、こまりますわ、今日は、おなかの皮と耳のあなのおせんたくをしようと思って 

いたのに オホホホホ」

 おかあさんたちは、そんなじょうたんをいってわらっていましたが、それから毎日ほんとうに

お天気のしんぱいをすることになりました。

 さて、丘の上では三匹の子だぬき達がいっしょうけんめい、腹づつみのれんしゅうです。

 みんなブイッと背中をむけあって、ポンポコやっています。

 三匹ともいじをはりあって、まちまちの音を出すものですからうるさいばかりで、ちっとも

たのしくありません。

 おたがいにちらりちらりとようすをうかがったり、腹づつみのねいろをたしかめあったり、

きょうそうでおおきなおとをだしたり、みんなは、きのうまできもちをそろえて太鼓のえんそうを

していたことをすっかりわすれてしまったようです。  

 そうぞうしいばかりの三匹の子だぬきの太鼓のえんそうは、この日一日、夜がふけるまで

つづきました。

 そして、この日をさかいに次の日もまた朝早くから、このうるさい太鼓のえんそうがはじまり、

夜おそくやっと終わるという毎日がつづくことになったのです。

そのうるさい音は、日がたつにしたがってだんだんはげしさをまし、十日がすぎました。

 丘の上の雑音は、今日もつづいています。



 いつもとちがうといえば、そうそう、ケッケタンの姿がみえません。

 ケッケタン、きょうは腹づつみのれんしゅうをやめたのかな。

 いいえ、そうではありません。ケッケタンはあまりおなかをたたきすぎて、おへそのごまを

おっことしてしまったのです。

 それで、43度もねつがでてしまい、はなをグシュグシュさせながら、ねこんでしまったのです。

 「………というわけですから、どうぞおみまいにきてください。」

 ケッケタンのおかあさんが丘の上のボンコタンコとノンコロリンにおしえにきてくれました。

 でも、ポンコタンコもノンコロリンも知らんぷりです。

 ほんとうは、

『ケッケタン、ひとりでさびしいだろうな。』

『おみまいにいきたいなぁ。』とおもっていましたが、そんなきもちをおたがいにきづかれないように

だまっておなかをたたきつづけています。

 そして、ときどき、にやっとわらうのです。

 なぜって……。

 だってさあ、きょうそうあいてがひとりへったんですもの。                                    

 ポンコタンコもノンコロリンもちょっとうれしかったんです。



 それから、また十日がたちました。

 ポンコタンコとノンコロリンだけになったうるさいばかりの太鼓のれんしゅうはあいかわらず丘の上で

つづいています。

 でも、こころなしか腹づつみの音のいきおいがなくなってきているようです。

 そしてまた、十日がたちました。

 今夜はまちにまったまんげつの夜です。

 丘の上をみると、あれれ、ポンコタンコがひとりきりでさみしそうにすわっています。

 ノンコロリンはどうしたんでしょう。

 そのころ、ノンコロリンはお目めにほうたいをまいて、うんうんとうなってとこにふせっていました。

 おなかをつよくたたいたしんどうで、出ていたお目めがますますとびでてしまったのです。

 それで、さいごまでのこったのはポンコタンコだけ。

 たった一人勝ち残ったポンコタンコだって、おなかのかわがまっかにはれあがっていまにも

やぶれそうです。

 でも、ポンコタンコはがんばりつづけました。そして、今夜はとうとう、まんげつです。

 それにしても、ポンコタンコはちっともうれしそうではありません。

 いえ、すこしまえまでは、うれしくてしょうがなかったのです。

 ゆめにまでみた世界りょこう。それも、お月様の上にのっかって腹つづみをしながらさ。

 それがもうすぐかなうのです。むねがわくわくするのはあたりまえです。

 「でも……。」ポンコタンコはみょうに、かなしいきもちです。

 そのとき、西の山からお月様が大きなかおをだしました。

 「おやっ、なんだかおかしぞ。」とお月様はおもいました。

 いつもはきこえてくる楽しい太鼓の音が今夜はさっぱりきこえてきません。

 丘の上にはさびしそうなようすの子だぬきが1匹だけ、ぽつんとすわっています。

 お月様は、不思議に思って1匹だけいる子だぬきにたずねました。

 「今夜はみんな、どうしたのかな。」

 お月様に声をかけられたポンコタンコは、お月様をみあげたままなにもいいません。

 「ああ、そうか、きみがわしといっしょに世界旅行に行く子だね。」

 お月様は、やっと合点がいったので、ヒョイとポンコタンコに手をさしのべました。

 ソノトタン、ポンコタンコは今までこらえていたものがプツンときれてしまいました。

 ポンコタンコは、ワーンと大声でなきだすとめんくらっているお月様にいいました。

「お月様のばか、ばか、ばか。ケッケタンもノンコロリンもおなかをたたきすぎて

病気になっちゃったよう。おいら一人だけ、お月様の上で腹づつみしても、おもしろくないや。」

 ポンコタンコは、なきながらお月様にうったえつづけました。

 お月様は、ポンコタンコの話を聞いてびっくりしました。、

自分のわがままからこんなことになっていたなんて。

お月様は、しばらく考えてからいいました。

「そうだったのかい。わしのがわがままをいったばかりに、みんなにめいわくをかけて

しまった。ごめんよ。今夜の世界旅行はやめにしよう。」

 「お月様が、あやまってくれても、ケッケタンとノンコロリンのびょうきはなおらないや。」

 ポンコタンコは、お月様があやまってもまだおこっています。



「よし、それじゃあ、みんなへのおわびのしるしにお月様がプレゼントをあげるよ。」

「プレゼント……。」ポンコタンコはしゃくりあげていたかおをあげるとそう聞き返し

ました。

お月様は、いつのまにかキラキラ金色にひかりかがやくはらまきとほうたいをとりだして

 いました。

  「これは、わしの光を糸につむいでつくったはらまきとほうたいだよ。これをつかって

 ちりょうしたら、どんなびようきだって、けがだってすぐなおるんだ。そら、これを

 おともだちのところへもっていきなさい。」

  お月様は、そっとポンコタンコにはらまきとほうたいをてわたしてやりました。

  ポンコタンコは、はじめは目をパチクリしていましたが、ペコッとあたまを

 さげるともう、ぜんそくりょくでおかをかけおりていきました。」

  おかのふもとで、いったんたちどまり

  「お月様―、どうもありがとうー。」とお月様にお礼をいうと

  ポンコタンコは、ケッケタンとノンコロリンのうちにむかっていちもくさんにかけていきました。

  お月様は、やさしい金色の光をなげかけて、ポンコタンコをみおくりました。

 
                 

  ポーン ポーン スッポコポーン

 丘の上のステージにまたあのたのしいすんだ音がもどってきたようです。

 そうです。今夜はあれから一と月たったまんげつのよるです。

 明るいお月様のスポットライトにてらされて、3匹の子だぬきはたのしく太鼓のえんそうを

つづけます。

 「ねえ、ねえ、お月様、ぼくたちみんなじょうずでしょう。」

 「うん、みんながバラバラにやっていたときとは、おおちがいさ。」

 「へへへ、もうそんなことないよ。お月様が変なことをいわなければね。」

 「あれれ、これは1本とられたね。」

 「あはははは。」

 ケッケタンモノンコロリンのけがもなおり、みんなげんきいっぱい。

 今夜は、1ばんはずんだ楽しいたいこのえんそうがつづきそうです。

 ポーン ポーン スッポコポーン ポーン ポーン スッポコポーン

 ほら、みんなの耳にもきこえるでしょう。

 あの子だぬきのおんがくたいの楽しいえんそうが………。

                       おわり