コスモスのトンネル  作キムドン

 れいかは秋風に揺れるコスモスをぼんやり眺めていた。

 この春にいとこのりんこが種を送ってきたコスモスだ。

 れいかの家がマンションなのでおばあちゃんの家の花壇に植えさせてもらったのだ。

 れいかのお母さんの職場でコロナの感染者が出たため、れいかは感染防止のため昨日からおばあちゃんの家に来ている。

 いとこのりんこのお父さんもコロナに感染して、入院しているらしい。

 そのため、りんこは今年、夏休みにおばあちゃんの家に来るのをとりやめた。

コスモスは暑い夏にぐんぐん成長して、もうれいかの背丈を超えている。

庭の小道の両側に植えたコスモスが上の方で重なり、トンネルのようになっていた。

 『コスモスがこんなにきれいに咲いたのにりんこがいなくてつまんない。りんこに会いたいなあ』とれいかはため息交じりにつぶやいた。

 その時、目の前のコスモスのトンネルから花の香りがする風が吹いてきた。

体を包み込んだ風に背中を押されるようにれいかはトンネルの中に足を踏み入れた。

三メートルの長さのコスモスのトンネルを抜け出すとれいかは見渡す限りのコスモス畑の中にいた。

なだらかな丘の頂からすそ野まで赤、ピンク、黄、白のコスモスの花で埋め尽くされている。

れいかがびっくりして立ちすくんでいると突然、コスモスの花畑にひょろりと背の高い女の子が現れた。

「あっ、りんこだ。大きくなったね、りんこ。りんこが送ってくれたコスモスのトンネルを抜けたら、この丘にでたのよ。」とれいかはりんこを見上げて言った。

「一年ぶりだね、れいか。れいかも大きくなったよ。」

二人は、お互いの成長に驚きながら、しっかり手を握り合った。

かけっこでコスモスの丘の頂にたどり着いた二人は、大の字になって青空を見上げた。さわやかな秋風に丘の頂からすそ野まで絨毯のように埋め尽くしたコスモスの花が揺れている。

「りんこのお父さんがコロナにかかって、おばあちゃんがとても心配していたよ。」

「お父さんは、肺炎がひどくて大変なの。お見舞いにも行けないのよ。悲しくて庭に出てコスモスの花を見ていたら、れいかの顔が浮かんだの。コスモスの花に向かって『れいかに会いたい。』って大きな声で叫んだら、その瞬間、一面コスモスが咲いているこの丘に立っていたのよ。」

 「きっと、コスモスの花の精がりんこのお願いを聞いて私を連れてきてくれたのね。お父さんの病気のこともコスモスの花の精にお願いしたら。」

「えっ、どういうこと?」
 りんこはれいかに聞き返した。

「不思議な力を持っているコスモスの花の精にコロナを退治してもらおうよ。りんこのお父さんも良くなるし、コロナがいなくなったら、また、おばあちゃんの家で会えるよ。」とれいかが言うと、りんこは目をキラキラ輝かせて言った。

「そうだね、そうしよう!れいか!コスモスの花の精に二人でお願いして、コロナを退治してもろうよ。」

二人は顔を見合わせると声をそろえ言った。

「コロナなんかいなくなれー!」

その途端、コスモスの丘がピカッと光を放って大きく揺れた。

無数のコスモスの花が空に向かって飛んでゆく。れいかとりんこも飛び交うコスモスの花の渦に巻き込まれ、青い空に吸い込まれていった。 

「れいか、そんなところで寝ていると風邪をひくわよ。」

おばあちゃんの声に目を開けるとれいかはおばあちゃんの家の庭の芝生に寝ていた。

花壇にはコスモスの花が風に揺れている。

「れいか、早く家の中入っておいで、りんこから電話よ。りんこのお父さん、コロナが治って退院したそうよ。本当によかったね。」

れいかは、まだボーっとしている頭のまま、で家に入った。

居間のテレビで臨時ニュースが流れていた。 

『コロナの感染が急激に減少しています。専門家が今、その原因を調査しています。いろいろな要因が考えられていますが、結局、はっきりとした理由は不明です。コロナの謎の急激な減少に専門家は戸惑っています…』

 れいかはテレビのニュースを横目で見ながら電話の受話器を取った。

 そして、電話の向こうで何やら笑いながら話しているりんこに大きな声で言った。

 「やったね!りんこ。今度はおばあちゃんの家で会おうね!」