なっちゃんのおまじない 作 キムドン

 真っ黒に日焼けしたなっちゃんがゆめみの幼稚園にやってきたのは、夏休みが終わった2学期の始業式の日でした。
 「みんななかよくしてね。」となっちゃんが元気に笑顔であいさつするとクラスの中が温かい空気につつまれました。「なっちゃんの席はまりちゃんのお隣ね。」先生が後ろの席の女の子を手招きしました。
 色の白い子がもじもじ恥ずかしそうになっちゃんを迎えに来ました。なっちゃんと並ぶと一層肌の白さが目立ちます。
 「さあ、今日はみんなが植えたひまわりにお水を上げましょう。なっちゃんはまりちゃんのヒマワリを一緒にお世話してね。」
 幼稚園では、自分が植えたひまわりを自分でお世話することになっていて、草取りや水やりを一生懸命行っていました。
 まりちゃんは外に出るのが大嫌いでヒマワリのお世話を熱心に行っていませんでした。まりちゃんとなっちゃんがひまわり畑に行くとみんなは夏休み中に大きく育ったひまわりに歓声を上げて水やりををしていました。
 「まりちゃんのひまわりはどこ?」となっちゃんが尋ねるとまりちゃんは恥ずかしそうに小さなひまわりを指さしました。
 細くて弱弱しくて風に吹かれると今にも倒れそうです。水やりが終わったお友達が順々にクラスに戻り、二人だけになった時、なっちゃんがまりちゃん言いました。
 「まりちゃん、だいじょうぶだよ。ひまわりが大きくなるおまじないをおしえてあげるから、わたしとおなじようにやってみて」
 なっちゃんが人差し指をひまわりに向けると「レーナクキーオ」と唱えました。
 すると、しなだれていたひまわりがくいっと頭をもたげました。
 「さあ、まりちゃんもやってみて」といわれて、まりちゃんが人差し指をひまわりに向けて「レーナクキーオ」とおまじまいを唱えると、ひまわりがするするっと背を伸ばしたではありませんか。
 目を丸くしてひまわりを見つめているまりちゃんになっちゃんが言いました。  
 「このことはわたしとまりちゃんのひみつね!また、あしたおまじないをかけようね。」 
 外へ出るのが大嫌いだったまりちゃんは次の日から毎日ひまわり畑に行って、ひまわりにおまじないを掛け続けました。弱弱しかったひまわりはどんどん大きくなりました。
 なっちゃんとまりちゃんはお友達のひまわりにも花壇のあさがおにもおまじないをかけて歩きました。  
 ひまわり畑は5メートルの高さのひまわりが林のように立ち並び、花壇のあさがおは色とりどりの傘が開いているようです。
 「今年のひまわりとあさがおは、どうしてこんなに大きくなったのでしょう。」と先生方は不思議に思いましたが、まさかなっちゃんとまりちゃんの仕業とは思いませんでした。
 まりちゃんはおまじないを覚えてから外遊びが大好きになりました。いつのまにか、まりちゃんはなっちゃんとおなじくらい真っ黒に日焼けした元気いっぱいの女の子になっていました。
 夏も終わりに近づいたある日、ゆめみ野幼稚園でお泊り会が行われました。お泊り会のメインイベントは園庭で行われる花火大会です。でも、お泊り会の日はあいにくの雨。
 「こんな天気だと花火大会ができないね。」とまりちゃんががっかりして言いました。 
 窓からじっとかみなりの音が聞こえる空を見上げていたなっちゃんが、とつぜん雨の園庭に飛び出していきました。そして、空を指さすと大きな声で「ロエキメーア」と叫びました。すると降っていた雨がとつぜんやみ、園庭の上に雨雲のドームが出来ました。
 「さあ、ひまわりと朝顔の花の花火大会のはじまり!」となっちゃんがおまじないを唱えました。そのとたん、ぴかっと稲妻が走り、ドーンという音とともにひまわり畑のひまわりと花壇の朝顔が「ぽーん、ぽーん」と夜空に打ち上がっていきます。雷の音が鳴り、稲妻がひかる中、次から次へと打ち上がっていくひまわりと朝顔が夜空で大きく花開いています。まるで花火のようです。はじめは不安そうだった子ども達がまりちゃんを先頭に 「なっちゃんすごーい。」「きれーい。」「お空が花畑みたーい!」と園庭に飛び出しました。
 雨雲の下の花火大会は幼稚園のヒマワリと朝顔が一本残らず打ち上がるまで続きました。
 いつの間にか眠りについたみんなが翌朝、目を覚ますと園庭には雲一つない青空が広がっています。幼稚園のひまわりや朝顔はもとのまま、まばゆい朝日に輝いています。
 昨夜の花火大会が夢のような感じです。
 雨上がりの園庭で朝の体操をしながらまりちゃんはなっちゃんに囁きました。
 「なっちゃん、花火大会ありがとう!」