にげだしたイロハ  作 キムドン

 

「あっ、雪が降ってきた、雪だよ。」と庭にひらりと雪が降ってきたのを見たあきちゃんが大喜びでベランダの戸を開けた時です。

白猫のイロハが庭にとび出していきました。。

イロハはあっという間に庭の塀をのり越えて姿を消してしまいました。

あきちゃんはイロハを追いかけましたが見つかりません。
 そのうち雪がどんどん降ってきたので、あきちゃんは家に戻りました。

「あらあら、あきちゃんどうしたの。こんなにほっぺをを真っ赤にしてかわいそうに。」

あきちゃんの誕生日のお祝いに来ていたおばあちゃんが泣き顔のあきちゃんを抱きしめて言いました。

「イロハは、そのうちに帰ってくるよ。」

おばあちゃんがなぐさめてくれましたが、あきちゃんは心配で心配でたまりません。

日が落ちて暗くなってもイロハは帰ってきません。ベランダの窓から外を見るといつのまにか一面の銀世界です。
 あきちゃんは、白猫のイロハが戻ってきたとき、すぐ家に入れてあげようと窓にぴったり顔をくっつけて見張っています。

その様子をじっと見ていたおばあちゃんがあきちゃんに言いました。

「イロハは戻りたくても雪が深くて戻ってこれないのかな。あきちゃん、おばあちゃんといっしょにイロハをさがしにいこうか。」

「ダメですよ、おばあちゃんは風邪気味なんですから。それにお父さんが帰ってきたらすぐにあきちゃんの誕生会を始めますよ。」

お母さんが二人を止めましたが、あきちゃんとおばあちゃんは身支度をすると雪がふる中、イロハを探しに外へ出て行きました。

二人が「イロハ〜,イロハ〜」と名前を呼びながら探していると風の音に交じって「にゃーん」とイロハの声が聞こえました。

「おばあちゃん、イロハの声が千の木公園から聞こえてくるよ。」
 二人は千の木公園へ走っていきました。 
 イロハの声は千の木公園のログハウスの床下から聞こえます。
 おばあちゃんがログハウスの床下に積もっていた雪を手でかき出すとイロハが雪まみれになって出てきました。 
 あきちゃんは震えながら出てきたイロハをしっかり抱きあげました。

イロハは「にゃーんゴロゴロ」と鳴きながら嬉しそうにしがみついてきました。

おばあちゃんのおかげでイロハは無事、家に戻ることができました。
 でも、風邪気味だったおばあちゃんはそのあと高い熱を出し、救急車で病院に運ばれました。 
 おばあちゃんんは重い肺炎になってしまったのです。 

おばあちゃんが楽しみにしていたその日のあきちゃんの誕生会も中止になりました。
 おばあちゃんは、雪が解けて春を迎えた今もまだ病院にいるのです。
 『おばあちゃんの病気は、良くなったかなあ。病院に
おばあちゃんのお見舞いにいこうかな。そうだ!おばあちゃんにスイセンの花を持っ
ていこう!』

庭の花だんに黄色の花を咲かせたスイセンを見つけたあきちゃんがベランダの戸を開けた途端、イロハが足元をすり抜け庭にとび出して行きました。

「あっ、イロハが出ちゃった!」

あきちゃんは、イロハを追いかけながら、千の木公園でおばあちゃんとイロハを見つけた去年の冬の出来事を思い出しました。 

「そうだ、イロハはまたあの千の木公園に行ったんだわ。」

まっすぐ千の木公園にやってきたあきちゃんは、公園の奥にあるログハウスに向かいました。
 ログハウスの周りには雪がまだたくさん解け残っています。 

あきちゃんがログハウスの床下をのぞき込むとやっぱりそこにイロハがいました。
 「あっ、おばあちゃんの手提げ袋。イロハを助けた時、雪に埋もれてなくしたおばあちゃんの手提げ袋だ。」

床下のイロハが雪にまみれた手提げ袋を口にくわえています。
 おばあちゃんの手提げ袋を引っ張るとイロハが一緒に床下から出てきました。
 手提げ袋の口を開けてみると中にカードが入っています。
 それはあきちゃんへの誕生カードでした。
 『あきちゃん、5才の誕生日おめでとう!あきちゃんの優しい笑顔におばあちゃんはたくさん元気をもらっていますよ。
 おばあちゃんはもっと長生きするから、あきちゃんも、もっともっと大きくなってね。』
 あきちゃんはおばあちゃんからの誕生カードを何度も何度も読み返したあと、大事にそーっと手提げ袋の中に戻しました。
 そして、イロハを抱き上げると元気な声で空に向かって言いました。
 「おばあちゃん、ありがとう。今日、おばあちゃんのお見舞いに行くよ!おばあちゃん、早く元気になってね!」

あきちゃんの真っ赤なっほっぺを春の日差しが暖かく照らしていました。