さきちゃんの不思議なオーブ 作 キムドン


今日はゆめみ野幼稚園の入園式。

はるちゃんは、年少組の入園児です。初めて会うお友達ばかりで、ちょっぴり緊張しています。

お母さんと離れられずに大泣きしている子もいて、ホールの中はざわざわとしています。

子ども達の泣き声であふれています。入園式が始まり園長先生のお話が始まっても泣き止まない子が沢山います。

はるちゃんは、長い園長先生のお話に飽きて、きょろきょろと周りを見回しました。

すると隣の席の女の子と目が合いました。

ピンクのかわいい服を着た女の子がにこっと笑いかけました。

眩しいくらい明るい笑顔にはるちゃんも思わず笑顔になりました。

「私の名前はさき、見て見て!」と言うと人差し指をホールの天井に向けました。

すると、人指し指から小さなシャボン玉のような光のオーブが湧き出して天井に向かって昇っていきました。

はるちゃんはびっくりして、お父さんややお母さんに知らせようと父母席の方を振り向きましたが、誰も気が付いていない様子です。

オーブの光が見えているのは、はるちゃんだけのようです。オーブは、天井まで登ると泣いている子をめがけ飛び散っていきました。

そのとたん、今まで泣いていた子ども達がピタリと泣き止みました。それどころかケタケタと笑いだしたではありませんか。

子どもの顔の周りでオーブがちかちかと瞬いていて、それが楽しくて笑い声を立てていたのです。

でも、その様子が目に見えているのは、はるちゃんだけのようです。

入園式が終わった後、はるちゃんがお母さんに「隣の席の女の子が指先から、光を出してすごかったよ。

さきって名前の子よ。」と話しても「何、言ってるのはるちゃん、夢でも見ていたの。あなたの意隣の子は男の子だったでしょう。」とおかあさんに笑われました。

 誰の目にも見えないさきちゃんは、入園式の次の次の日もまた次の日も毎日、ゆめみ野幼稚園にあらわれました。

そして、お母さんが恋しくて泣いている子を見つけるとその子にオーブをふり掛けます。

すると、あっという間に泣き止み、元気に遊び始めるのです。

ですから、いつもの年は入園式からしばらくは幼稚園で泣き声が絶えなかったのですが、「今年はとっも早く泣き声が収まったね。」と先生方が話していました。

さきちゃんのオーブの力で、子ども達はすっかり幼稚園の生活に慣れ、元気な声がゆめみ野幼稚園のホールや園庭に響き渡る様になりました。

さきちゃんはいつも園庭にある桜の木の下で子ども達の遊ぶ様子をにこにこ笑って見ています。

その時、桜の木の周りには不思議なオーブの光が飛び交っているのです。

めみ野幼稚園では毎年、桜の花が満開になると桜の木の下に全園児が集まって桜まつりをします。

桜まつりは、ランチをしたり、でみせがあったり、楽しいゲームがいっぱいのっ行事です。

ゆめみ野幼稚園の子ども達は皆桜祭りの日が来るのを楽しみにしています。

ところが、今年の春はとても寒い日が続いて、5月の初めに雪が降ったりしました。桜の芽もつぼみも寒さで硬く縮んだままです。

「こんな天気が続くと桜祭りができるのかなあ」とはるちゃんが真っ黒な雲に覆われた空を見上げてがっかりして言いました。

桜祭りの日は明日です。

その時、はるちゃんの後ろから「大丈夫よ、はるちゃん。」とささやく声がしました。

振り返るとさきちゃんが、にっこり微笑んで立っていました。

「はるちゃん、見て見て!」とさきちゃんが人差し指を真っ黒な雲に覆われた空に向けました。

すると、人指し指から光のオーブが渦を巻いて湧き出しきました。

光の渦は園庭の上に広がって、真っ黒な雲をどんどんおしやっていきます。

まばゆい光のドームの中で寒さのために縮んでいた桜のつぼみが膨らんできました。

オーブの光を指の先から出しながら、さきちゃんの体はだんだんに宙に浮きあがり、桜の木のてっぺんまで昇っていきました。

そして、指先から湧き出てきた大きな光の玉をパーンと破裂させました。

その途端、厚い雲で覆われていた空が一瞬のうちに晴れ上がり、桜の花がパーッと満開になりました。

はるちゃんが目を丸くしてみているうちにさきちゃんは、はるちゃんに手を振りながら桜の花の中に消えていきました。

次の日、ゆめみ野幼稚園では、澄み切った青空のもと盛大に桜まつりが行われました。

「さきちゃんは、桜の木に住んでいる花の精なの。また、でてきてね。会いたいなあ。」

はるちゃんは、満開の桜の木を見上げて、心の中でさきちゃんに呼び掛けていました。