スズとイロハのチビッコ星    
         作 キムドン

 スズとイロハは戦争で破壊された星から逃げ出した宇宙の旅人です。
 あちらこちらの星々をさまよい、ようやくたどりついたのがチビッコ星でした。
 チビッコ星は金色に輝く、とても小さな星です。
 のっぺらぼうの何もない星だったのでスズとイロハは、この星を美しい星に作り変えようと力を合わせて働き始めました。
 地面を掘り下げ海を作り、掘り出した土で山を作りました。山から流れる大きな川も作りました。
 そして、木の苗や花の種を小さな星一面に植えました。
 チビッコ星には命を育む不思議な力があったのか、あっという間に山々は緑の木々に包まれ、野原には色とりどりの花が咲きました。
山や海にはたくさんの生きもが産まれて、星中に広がっていきました。
 チビッコ星に平和な時が流れ始めたある日のこと、ドカーンと大きな音を響かせ銀色の巨大なロケットがチビッコ星に舞い降りて来ました。
 ロケットの扉がパカーンと開いて出てきたのは、宇宙商人のカネゴンです。

 「こんにちは皆さん、私はカネゴンと申します。今日からこの星にお店を開きます。
 品物の代金はこの星に埋まっている黄色い石ころでお支払いください。それでは宜しくお願いします」と大声で叫ぶとあっけにとられているスズとイロハに断りもなく花畑の上にドカドカとたくさんの品物を置きはじめました。
 カネゴンが話をしていた「黄色い石ころ」とはチビッコ星にたくさん埋まっている金の塊のことでした。
 カネゴンが花畑に並べた品物は、小さいものは洗濯ばさみから大きなものはお城の建て売りまで、ありとあらゆるものがそろっていました。 
 きれいな花畑を踏みつぶされ、はじめは腹をたてていた二人でしたが、カネゴンが花畑に並べた品物にだんだん気持ちを奪われていきました。
 「へえー、いろんなものがあるんだなぁ。これ、みんな、黄色い石っころで売ってくれるのかい。」
 スズとイロハの目は、目の前に山と積まれたたくさんの品物にくぎ付けです。
 次の日から二人は働くのをやめてチビッコ星をあたりかまわず掘り起こしはじめました。
 小さなちびっこ星はあっという間に穴ぼこだらけになっていきます。
 金の塊を掘り出した二人がまず初めに買ったのは、馬鹿でかい組み立て式のお城でした。
 二人のお城にたくさんの品物が運びこまれていきます。
 買い物競争はだんだん激しさを増し、二人の仲はだんだん悪くなっていきました。二人は相手のお城を吹き飛ばす恐ろしい爆弾をカネゴンから買って、いつか使おうとお城に隠していました。
 金の塊が根こそぎ掘り出されたチビッコ星は輝きを失ってしまいました。
 チビッコ星の美しい自然もすっかり破壊されて、チビッコ星は穴ぼこだらけの星になりました。
 それでもスズとイロハは、カネゴンのお店に買い物に出かけていきます。
 品物がほとんど無くなったお店で二人を出迎えたカネゴンは、ニヤニヤ笑いながらいいました。

 「短い間でしたがお二人にはたくさん買って頂いて本当にありがとうございました。
そろそろ、この星からおいとまします。もうロケットに積み込めないほど金の塊が手に入りました。この星には用がなくなりましたのでさようなら」
 カネゴンは、二人にそう告げるとロケットにさっさと乗り込んでいきました。
 轟音を立てて飛び去ったロケットの振動で
お城の中にあった爆弾が爆発して、お城も品物も全部もろとも空の彼方へ吹き飛んでしまいました。
 スズとイロハは、一瞬のうちに起きた出来事にはじめはポカーンと空を見上げるばかりでした。 
 やがて何もかも無くしたことに、気付いた二人はロケットの炎に焼かれた花畑にしゃがみ込んでしまいました。
 
二人は自分たちが破壊した荒れ果てた山や丘や海や川に目をやりました。
 今やチビッコ星は、自分たちが逃げ出してきた戦争で破壊された星のようです。
 いつの間にか日が暮れました。夜空を見上げるといつもと変わらず星が美しく輝いています。
 その星空を見ながらスズが言いました。
 「僕たちがチビッコ星にたどり着いた時より、荒れた星になっちゃったね。バカだね僕たち。
また、やり直しが出来るかな。」「大丈夫だよ。できるよ。もっともっと美しい星をつくろうね。
今度、カネゴンがやってきたら、今度は二人で追いかえそうね」とイロハが答えました。
 二人は顔を見合わせ、どちらともなく手を出し合い、固く握りあいました。
 夜が明けて、朝日が昇りました。
 スズとイロハはスコップを片手に、目の前に広がる荒地に向かって力強く一歩踏み出しました。