つかまえたカエルの話 作 キムドン
あやとがカエルを捕まえてきた。
「園長先生、田んぼで泳いでいたカエルをつかまえたよ。幼稚園で飼ってもいい?」
「まてまて、まずはこのカエルを飼育ケースに入れよう。」
園長先生は、教材庫から飼育ケースを持ってきて、カエルを入れるとホールの陳列棚に置いた。
飼育ケースの中のカエルを見ようと子ども達が「わーっ」と集まってきた。
「大きいね」「だれがつかまえたの」「どこにいたの」「さわってみたい」
子ども達が飼育ケースのまわりでわいわいさわいでも、カエルはじっとしたまま。
子どもの中には、飼育ケースを乱暴につついて園長先生に叱られていたが、当のカエルは知らんぷり。
「園長先生、このカエルを幼稚園で飼ってもいい?」とあやとが園長先生に聞いた。
「カエルは、活きたエサしか食べないよ。飼うのはむずかしいなあ。
今日一日だけ、幼稚園において、みんなが帰る時、田んぼに放そう。それでどうだい。」
「それがいいよ。帰りの時間に、みんなでカエルをたんぼに放しにいこうよ。」
同じクラスのりんちゃんがあやとにいった。
あやとの捕まえたカエルは、今日一日幼稚園にいることになった。
各クラスの子ども達が順番にカエルの所にやってきた。
「このカエル、なんかえらそうだね。」
「大きな目でぼくをにらんだよ。」
カエルは、子ども達が次から次とやってきて大騒ぎしても、じーっと動かず、時折子ども達をにらんでゲコっと鳴いた。
全部のクラスが見終わるとホールには誰もいなくなった。
カエルは、しばらく飼育ケースの中で置物のように静かにしていたが、
突然、大ジャンプをして、飼育ケースのふたをはね飛ばすとホールの床に飛び降りた。
そして、誰もいないホールをピョンピョン横切って物品庫の中に入っていった。
降園時間にあやとが五、六人の友達を引き連れて園長室にやってきた。
「園長先生、カエルを放しに行くよ。」
「よーし、いこうか。」
園長先生は子ども達といっしょにホールに向かった。
「あっ、カエルがいない。」
飼育ケースのふたが外れていて、カエルの姿はどこにもなかった。
「大変だ、カエルが逃げ出したぞ。どこへ行ったんだろう。みんなでさがそう。」
園長先生が言うと子ども達はパーッと散らばって、カエルを探し始めた。
物品庫に探しにいった子ども達がすぐ飛び出してきて園長先生を手招きした。
「園長先生、カエルがいたよ。」
園長先生が物品庫の中をのぞくとカエルは、物品庫の窓に張り付いていた。
窓の外には幼稚園の裏の田んぼが見える。
「あー、やっぱりカエルはたんぼに帰りたかったんだ。」
あやとはため息交じりに言った。
園長先生は窓に張り付いているカエルをひきはがすと飼育ケースに戻した。
「さあ、みんなで田んぼに行くよ。」
園長先生は飼育ケースをもって、子ども達と一緒に外に出た。
幼稚園の裏手に広がる田んぼには、青苗が風に吹かれて揺れていた。
田んぼのあぜ道までやってくると園長先生は飼育ケースを草の上に置き、ふたを取って言った。
「さあ、田んぼに帰るんだ。」
でも、カエルは飼育ケースの中に入ったままでジーっとしたまま出てこない。
「出てこないね。」とあやと。
「まわりの様子を見てるんだわ。ちょっとはなれていようよ。」とりんちゃん。
みんなは飼育ケースからはなれたけれど、カエルは動かない。
待ちきれずにあやとが飼育ケースをつついたとたん、カエルがピョーンと大ジャンプして飛び出した。
「わーっ」と子ども達は歓声を上げた。
そして、カエルに向かって叫んだ。
「あっち、あっち、たんぼはあっちだよ。」
その声に押されるようにカエルは田んぼに向かってジャンプ。でも田んぼには届かない。
子ども達はカエルの後ろからまた、叫ぶ。
「頑張れ、頑張れカエル。あと少し。」。
カエルは、子ども達の応援の声に応えて、最後のジャンプ。
「チャポーン」と水音を立ててカエルは、田んぼにとびこんだ。
そして、気持ち良さそうにスイーッと泳いでいった。田んぼの奥に消えていくカエルを子ども達は手を振って見送った。
「元気でね。さようならー。」