宇宙からのワクチン 作 キムドン
心太のお父さんは宇宙文明との交信を行っている天文台の研究者だ。
天文台は、心太の家から車で3時間以上も走ってやっと着く山の上にあった。
ある日、山から帰ったお父さんが言った。
「ああ、このままでは地球は人の住めない星になる。」
天文台の近くの山の木が年々、枯れてきているというのだ。
地球温暖化による気候変動が原因で今、世界中の国々の環境破壊が進んでいると教えてくれた。
「お父さんが宇宙からの信号を待っているのは、地球を救う方法がその中にあるかも知れないと思っているからだ。」
と心太に言った。
「お父さん、今度 心太にも信号をさがさせてよ。」と心太はお願いした。
するとお父さんは、
「よし、今度、天文台に一緒に行こう。」と心太を誘ってくれた。
三日後、心太とお父さんが天文台に泊まり込んだその夜、星空に大異変が起こった。
予測されていない流星群が突然出現して、一晩に何百万個という流星が地球に降り注いだのだ。
そして、流星群が観測された直後、世界中の天文台の電波望遠鏡に宇宙からの信号が入り始めた。
「心太、今宇宙からの信号がどんどん入って来ているぞ、だけど解読出来ないんだ。」
心太がパネルを覗き込むとパネルの画面に信号の波が躍っていた。
心太が激しく上下に波打つ信号を見ていると心太の頭の中に光が飛び込んできた。
その途端、心太の髪の毛が逆立ちアンテナのようになった。
お父さんが驚いた顔で心太の頭を見ていると心太が口を開いた。心太の声が天文台の中に響き渡った。
『宇宙からのメッセージを伝える。地球は生命のオアシスである。
今、人類によって傷つけられ、壊され、瀕死の状況にある。今、我々は地球の救急に向かっている。』
心太の頭に浮かんだイメージは、宇宙が大きな生命体であることや地球もその生命体の一部であり、今、地球が傷つき、苦しんで大きな悲鳴を上げている姿であった。
心太が周りに集まってきた天文台の研究員やお父さんに心の中に浮かんだイメージを説明しているとまた、心太の髪がアンテナのように逆立ち、大きく震えた。
「お父さん、もうすぐ、宇宙の生命体が地球に着くよ。みんな、外に出よう!」と心太が叫んだ。
みんなが慌てて天文台の外に出ると夜空が一面、明るく輝いていた。
みんな声も出せず光が渦巻く夜空を見上げた。
空に太陽が出ている国々では、その太陽の光がかき消され、闇に覆われた空一面に無数のブラックホールが渦巻いていた。
この日、宇宙の生命体のメッセージを世界中のたくさんの子ども達が受け取っていた。
不思議なことにメッセージを受けたのは子どもばかりで大人は一人もいなかった。
心太やメッセージを受け取った子ども達は、宇宙の生命体が地球の破壊を止めるため、助けに来ると信じていたが、世界の国の指導者たちはそのようには考えなかった。
『宇宙の生命体は、人類をがん細胞のように考えているにちがいない。治療の方法は、人類を滅ぼすことだ。
人類滅亡を防ぐため、宇宙生命体と戦争だ!』
そう考えた世界の指導者たちは、すぐさま国と国との紛争を停止すると、地球防衛軍を作った。
そして、お互いの国に向けていたすべての核ミサイルをハリネズミの針のように隙間な並べ、宙空間に向け、世界中の国が一斉に宇宙の生命体への攻撃を始めた。
夜の時間の国は輝く光の渦に向けて、昼の時間の国はブラックホールの渦に向けて、無数の核ミサイルを撃ち込んだ。
「お父さん、宇宙の生命体にミサイルを打つなんてまちがってるよ。そんなことをしても無駄だよ。今にわかるよ。」
と心太は言った。
地球の国々からの攻撃は、この日一日続いたが、核ミサイルを発射しつくし、やがて終了した。
打ち込まれたミサイルは、渦の中に吸い込まれていき宇宙の生命体には何の変化もなかった。
地球防衛軍からの攻撃が終了した直後、今度は宇宙の生命体から緑の光線が地球の隅々まで発せられた。
その途端、地球上のすべての兵器がミサイルから、小型のピストルまですべての兵器が使用不能となった。
戦火が止み、星が瞬き始めた空を見上げていた心太の心に宇宙生命体のメッセージが届いた。
『地球の破壊を止める宇宙ワクチンの投与が完了した。再発を防ぐのは未来を創る子ども達だ。