はばたけ未来へ 発足の子

 平成十二年四月、発足小学校に赴任した時、学校は雪の中に埋もれていた。

 校舎の北側は、二階の窓下まで雪があり、一階窓は雪囲に塞がれ、その向こうは冷たく、厚い氷の壁であった。

 学校の周りを歩いて見ても、どこもかしこも雪の山で「グランド、裏庭、校庭の花壇等はこの雪の下にあります。」と説明されても、その全容がさっぱり掴めないありさま。

 しかし、四月の中旬を過ぎたころから雪がどんどん解けはじめ、発足の美しい自然がしだいに姿をあらわし、赴任して来たばかりの「寒い、雪に埋もれた」発足小学校の印象は、「あかるく、あたたかく、あざやかな」発足小学校に変わって行った。

 五月の中旬を過ぎて、山のように積もっていた雪がようやく消え去ると学校の周りには、色とりどりの花が咲き始めた。

 まだ雪の残る沢には、ヤチブキが黄金の花を咲かせ、道端や田のあぜ道には水色の可憐なエゾエンゴサクとピンクのカタクリの花が春風に揺れている。

 春に、よく見かけた草花が姿を消すと、夏には別の草花が顔を出す。季節の移り変わりとともにいつの間にか行われる草花の絶妙な交代劇、そして、次々と新しい草花を地上に送り出す発足の自然の豊かさには、本当に驚かされたものである。

 総合的な学習の時間に子供達と一緒に見つけた発足に自生するたくさんの草花。

 それをデジタルカメラに収め、図鑑で名前を調べ、パソコンに保存する、その数は三年間で七十種類を越えた。


 さて、発足小学校の一年は、自然の豊かな営みと足並みを揃えて過ぎて行く。


 春、厳しい冬の間、大切に育てた鮭の稚魚を放流。雪解けの厚田川に響き渡る鮭太鼓。

 裏山の山桜が満開の頃、地域のおじいちゃん、おばあちゃんと一緒に学校田の田植え。

 
 夏、総合的な学習の時間に発足の山や川を探検、いろいろな活動にチャレンジ。

 イカダ流し、珍しい草花の採集、ハウスの中のメロンの栽培。

 
 秋、黄金の稲穂の刈り取り。収穫の秋祭りに、元気に繰り出す子ども神輿。

 別狩の山々にうっすらと雪がかぶるころ、新たな命を生み出す鮭の卵の受精授業。


 冬、学校田で収穫したお米で餅つき集会。 
 地域の人々がたくさん集い、鮭の稚魚の誕生と収穫を 祝う。

 深々と降り積もる雪と寒さに負けず元気に滑るスキー授業。


 季節の流れの中で行う一つ一つの学校行事、学習活動が子供達の心と体を大きく、豊かに育んでいる。

 美しい自然に囲まれた地に立ち、地域とともに、ふるさと自然学習を推進している発足小学校で、明るく、素直な子供達と三年の年月を過ごせたことを幸せに感じている。

 現代の日本社会、とりわけ都市部においては自然とともに生活しているという自覚が希薄であり、季節の移ろいを意識することなく、気忙しい毎日を過ごしている。

 私も発足小学校に赴任する前は、同様の生活をしていた。

 でも今は、心から自然の風情を楽しむゆとりを持てるようになった。

 これも、発足小学校での三年間が私の意識の変革をもたらしたと言えよう。

 その発足小学校が閉校となる。

 運命の巡り合わせで、三月には発足小学校の幕を閉じる任を務める。

 今の私は、発足小学校を巣立つ子供達が自然豊かな故郷発足に誇りを持ち、元気いっぱい未来社会へ羽ばたいて行くことを願うばかりである。

 そんな思いを込めて作成したのが、閉校記念歌「はばたけ未来へ発足の子」である。


 発足小学校閉校記念歌  「はばたけ未来へ発足の子」


 一、雪解けの 谷川に 黄金のヤチブキが

   裏山の 日だまりに 水色のエンゴサク

   春の日の 暖かな光に包まれた

   ふるさとの学び舎

   丘を駈け 花を摘み

   育んだ 美しい心で

   はばたけ未来へ発足の子


 二、青い空 白い雲 緑濃き山々

   水清き せせらぎに 群れ泳ぐ魚たち

   夏の日の 目映い光に包まれた

   ふるさとの学び舎

   木に登り せみを追い
   育んだ 逞しい体で

   はばたけ未来へ発足の子


 三、鮭のぼる 水上に 五色のじゅうたん

   田の稲穂 風に舞い 金色の波を打つ

   秋の日の 穏やかな光に包まれた

   ふるさとの学び舎

   収穫の 喜びが

   育んだ 豊かな心で

   はばたけ未来へ発足の子


 四、白銀に 輝くは 別狩の山々

   深々と 降る雪と 戯れる子どもたち

   冬の日の 煌めく光に包まれた

   ふるさとの学び舎

   厳しい 寒さが

   育んだ 強い体で

   はばたけ未来へ発足の子

   はばたけ未来へ発足の子


 この詩に千葉教頭が素晴らしい曲をつけ、発足小学校の7人の子供達が閉校記念式典で心を込めて歌ってくれた。

 この思い出は、私の生涯の宝物である。